合格したというのに

出張中、妻から着信があった。
いつもはLINEでやり取りしているのに電話? 何かあったのだ。
急いでコールバックすると、娘の入学手続きが済んでいないという。
電話口での妻は涙を必死にこらえている感じだ。
たしか、書類みたいなのあったような・・・
入学金払って僕の役割は終わり。 そう思っていた。
メールを確認すると、入学の手続きのPDFのリンクが貼ってあった。
その中に『在学誓書・保証書』というのがあって、
自署での記入、連帯保証人の署名をもらう必要があった。
この書類は入学の意思を伝えるもので、書類がないと入学の意思がないと判断されてしまうらしい。
『在学誓書・保証書』にはこう記載されている。
 ・各手続期限までに全ての手続きが完了していない場合、「入学辞退」となります。いかなる理由があっても期限の延長はできません。
締め切りは2月11日郵送で必着。
今は2月10日。時間は21:30を回っていた。もう間に合わない・・・。
妻はパニックになっているようで、
“なんで気づかなかったの!娘が入学できなかったらあなたのせいよ!”
とは言わなかったけど、そう言いたいのが伝わってくる。
「まあ、お金払っているから大丈夫でしょ」
そう思っていた僕も、妻の切羽詰まった声に心が揺らいだ。
確かに、もしここに書いてあることが本当なら、一切受け付けないってことになる。そうなったら娘の今までの努力が無駄になってしまう。
あまり軽く考えてはいけないことだと思った。
懇親会を抜け出して一人ホテルに戻って今できることを考えた。
まずは直接持って行く作戦を立てた。
そのためには書類を仕上げなければいけない。
保証書には、連帯保証人の署名と印鑑が必要だ。兄にLINEをして保証人になってくれるようお願いした。事情を話すと、快くOKしてくれた(なんていい兄貴なんだー)。代筆で提出することも了承してくれた。
代筆は息子に頼んだ。久しぶりに息子の字を見た。少し角ばっていたけど、小学校の頃とは違って筆圧も強く、しっかりしたていねいな字になっていた。
これで書類の準備は完了。
次に、受け取ってもらえない可能性があるので、メールで事前に連絡することにした。
内容は、書類の郵送が期限に間に合わないので直接持って行くこと。
娘は御校が第一希望であり、三年間必死に勉強に取り組んできたこと。 僕のミスで入学を取り消されてしまうのは、父として申し訳が立たないこと。
長文にならないように適度な分量で思いの丈を伝えた。
そして、翌日8時に電話でも謝罪すると記載した。
全ての準備が整った頃には日付が変わっていた。
できることは全部やった。もしこれでもダメなら、直接校長先生に直談判しよう。そこまですればなんとかなるだろう。
ただ、これは全部僕の都合であって、ダメと言われてしまう可能性だってある。
もしそうなったら、娘はどれほど落胆するだろうか?
そう思うと、眠る気がしなかった。
翌朝、8時ぴったりに電話をした。
電話には事務局の女性が出た。
「受験番号0000、秋葉⚪︎⚪︎の父です。『入学誓書』について、本日期限なのですが間に合わないため、直接持って行きたいのですが大丈夫でしょうか?」
そう伝えると
「メールをいただいたお父様でしょうか・・・?」
そう返ってきた。
メールを見てくれていたのだ。
「はい、そうです。」
「お持ちいただく形で大丈夫ですので、事務局窓口までお越しください」
彼女はそういった。
メールの内容には触れられなかったが、電話口から気持ちは伝わったように感じた。
あー助かった。これで娘を失望させずに済む。そう思ったら一気にお腹が空いていることに気づいた。
そう言えば、懇親会の途中で抜け出して、何も食べていなかった。
ホテルに戻って朝食を食べた。いつもよりも多く食べたのに全然満腹にならなかった。
翌日、妻が学校に書類を持っていった。電話にでた女性ではなかったようだが受け取ってくれたようだ。念の為メールで確認したら、書類の不備もなく、受領しましたとメッセージをくれた。これで晴れて娘は入学することができるのだ。
ひとつ気になっていることがあった。
今回の騒動に巻き込まれた、妻、息子、娘の心境だ。きっと不満に思っているはずだ。家に帰って謝らなければいけない。気が重かった。
帰ると2階から妻が降りてきた。顔を見ると怒っている感じではなかった。 「とりあえず、よかった」 妻はそういってくれた。
昨日の夜、妻がパニックになった時に、息子が「落ち着いて」といって冷静に対応してくれたようだ。 息子にもお礼を言った。「助かったよ」というと、こっちを見ないでうなずいた。 娘にもヒヤヒヤさせてごめんと謝った。
「気づかなかったんだからしょうがないよね」と笑って返してくれた。
今回の危機を乗り越えたことで、家族の関係はまた違った形で強くなったような気がする。子供たちもちゃんと成長してくれていた。
しかし最後にこんなおまけが用意されていたなんて。
受験よりドキドキした。
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今週も「週刊秋葉塾」を読んでいただき、ありがとうございます。
出張のおみやげ、いつもより大量に買っていた。
強迫観念があったんだろうね。
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