ホワイトデー

毎年、僕と息子は妻からバレンタインデーにチョコをもらっている。
いつもは僕がお返しを買ってくるんだけど、
今年は時間がなくて買いに行くことができない。
そこで、息子に頼んでみようと思った。
彼は男子校に通っており、女性との接点がほとんどない。
中学3年生にもなったんだから、お返しを買ってくる体験してみてもいいんじゃないかって思ったのだ。
息子が部屋にいる時にドアを二回ノックして
「入るよ」と言って中に入ると、ゲームを止めてこちらを向いた。
最近少し様子が変わってきていて、前ほど嫌がるそぶりがなくなっている。
「お父さん、バレンタインデーのお返し買いに行く時間ないのよ。だから心(息子)が買ってきてくれない?」
最初、何のことかわかっていない様子で、少し固まった表情をした。
「学校の帰りに池袋のデパートに行けば、ホワイトデーの商品たくさんあるから、そこで選べばいいよ」
そう言って五千円札を渡した。
やっと内容を理解したようで、声を出さずに頷いて五千円札を受け取った。
「ちゃんとレシートをもらってくるように。足りなかったらあとは自分で出しなよ」
最後に「頼んだね」と言って部屋を出た。
数日後、息子からLINEが来た。
(息子)バレンタインのお返し買った。お釣りは机の上に置いてある
(僕)どんなの買ったの?
(息子)マカロン
(僕)写真送って
(息子)既読無視
家に帰ったら、お釣りとレシートが机の上に並べて置いてあった。
金額4,620円。ギリギリ刻んだなー。
冷蔵庫にはマカロンらしき箱が2つ入っていた。
3月14日は23時ごろ家に着いた。
2階に上がると、息子が近づいてきて冷蔵庫からマカロンを渡してきた。
てっきり僕は二人に渡したものだと思っていた。
「心から渡しなよ」
そう言ったら嫌がったので、僕から渡すことにした。
「バレンタインデーのお返しです。今回は心が選んでくれたんだよ」
妻は驚いた様子。いつもより嬉しそうだ。
中身を見たかった僕は
「開けてみて、開けてみて」
と二人をせかした。
箱を開けるとカラフルなマカロンが12個綺麗に並んでいた。
それを見た二人は「わー、綺麗」とか「食べるのもったいないー」と声を出して喜んだ。
息子も嬉しそうで、いつもより和んだ顔をした。
僕はここがチャンスだと思った。
息子との距離を近づけるチャンスだ。
何せ、約三年ほどまともに口をきいてない。
関係を修復するタイミングだと思い、息子に話しかけた。
「ありがとね。買うの混んでて大変じゃなかった?」
そう聞くと
「いや、そんなに」と答えた。
「いろいろあって選ぶの大変だったでしょ」
「まあ・・、大変だった」
「でも、いいの買えたね。喜んでもらって嬉しいね。」
「・・・うん。」
いつもよりいいキャッチボールができている。
もうちょっと距離感を縮めたい!
そう思った僕は、グータッチしたくなった。
「俺たちの勝利だね」
そう言って僕は手を前に突き出した。
息子とタッチするなんて何年ぶりだろう。
嬉しい気持ちを抑えて息子が手を出すのを待った。
すると和やかな表情から一変、
息子はうつむいて
(それは、いい…)
というそぶりで僕から離れて行ってしまった。
ちょっと期待しちゃったけど、まだ早かったな。
あれから何か大きく変わったことはない。
いつもどおり、朝もあいさつしないし、僕がいると部屋に戻ってしまうけど、小さな変化はあったと思う。
いつの日か、
——— はじめてお返しを買った時のこと
——— ギリギリ刻んだこと
——— 二人の評判が良かったこと
——— グータッチしたかったこと
「そんなことあったっけ?」
なんて言いながら、この日のことを話せたらいいなと思う。
ホワイトデーの思い出として。
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今週も「週刊秋葉塾」を読んでいただき、ありがとうございます。
息子が買ってきたマカロンは一瞬でなくなったそうです。
僕が買ってきた時は毎年長いこと冷蔵庫に居続けるのに・・・。
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